東京高等裁判所 昭和50年(行コ)33号 判決 1976年7月19日
控訴人 足立税務署長
訴訟代理人 小沢義彦 鳥居康弘 ほか二名
被控訴人 株式会社ササヅ
主文
原判決中控訴人敗訴部分を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
被控訴人の予備的請求は、いずれもこれを却下する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」、予備的に、「控訴人が被控訴人に対し昭和四三年八月三一日付でなした訴外株式会社名工金属製作所の昭和四〇年度の法人税の再更正および無申告加算税賦課決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」更に予備的に、「控訴人は被控訴人に対し右会社の昭和四〇年度の法人税につき課税標準額を金一三九万五二六四円と更正せよ。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の主張および証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
一 被控訴代理人は次のとおり述べた。
1 控訴人が昭和四九年九月六日訴外会社の青色申告承認取消処分を取消したから、訴外会社の昭和四〇年度法人税の申告は青色となり本件再更正および賦課処分は前提を欠き違法となつた。出訴期間の点については、被控訴人が昭和四四年九月九日青色申告承認取消処分の取消を求めて出訴しており、また、同年九月二二日本件無効確認訴訟が提起されており、同一課税関係につき同一の救済を求めているのであるから、行政事件訴訟法第一四条第三項但書の事由がある。
2 青色復活処分により国税通則法第二三条に従い被控訴人は課税標準額の減額の更正請求ができるわけである。請求できる期間は二箇月と定められているが同法第七七条第四項但書の準用が許されるべく、被控訴人は前記のとおり青色申告承認取消処分の取消を求めて出訴し、また、本件無効確認請求訴訟が継続中であるから期間が徒過しても正当な事由がある。
二 控訴代理人は、次のとおり述べた。
1 控訴人は昭和四三年八月三一日付で本件訴外会社の昭和四〇年度法人税の再更正および賦課決定をなし、同決定はその頃被控訴人に通知した。したがつて、被控訴人の取消請求は出訴期間を徒過しており、行政事件訴訟法第一四条第三項但書所定の事由には当らない。
また、右決定に対し国税通則法所定の異議申立、審査請求の手続をふんでいない。したがつて、取消請求は不服申立の前提を欠き不適法である。
また、取消請求は関連請求であるから、行政事件訴訟法第一九条第一項の規定により異議を述べる。
2 更正請求はいわゆる義務づけ訴訟であつて許されない。
理由
一 訴外株式会社名工金属製作所が昭和三九年度(同年八月一日から翌年七月三一日までの事業期間)以前から青色申告の承認を受けていたこと、右三九年度において、前年度の控除未済欠損金一二〇七万三二四九円、当期欠損金一六〇一万四四三三円があつたこと、昭和四〇年度(同年八月一日から翌年七月三一日までの事業期間)の法人税につき昭和四一年一〇月一一日課税標準額零の青色の確定申告をしたこと、昭和四三年一月一三日被控訴人が訴外会社を吸収合併したこと、控訴人が同年五月二八日訴外会社の昭和四〇年度以降の青色申告承認を取消したこと、控訴人が同年八月三一日訴外会社の前記欠損金の算入を許さず被控訴人に対し訴外会社の昭和四〇年度の法人税につき課税標準額を金二九四八万二九四六円、本税額金一〇四一万八五〇〇円とする再更正および金一〇四万一八〇〇円の無申告加算税の賦課決定をなしたこと、控訴人が昭和四九年九月六日青色申告承認取消処分の取消をしたことは、当事者間に争いがなく、被控訴人が青色申告承認取消処分の取消請求事件を昭和四四年九月九日、本件無効確認請求事件を同月二二日提起したことは、記録上明らかである。
二 被控訴人は「右青色申告承認取消処分の取消により訴外会社の昭和四〇年度の申告は青色となるわけであるから、法人税法第五七条の規定により前年度の欠損合計金二八〇八万七六八二円を損金に算入すべきであるが本件課税処分ではこれをしていないから無効である。」と主張する。
しかし、青色申告の承認は申告の方法を規制する行政処分であつて、その承認ないし取消と、課税処分とは全く別個の行政処分である。したがつて、右承認が取消され青色申告が白色として取扱われ、これに基づいてなされた課税処分は所定の手続を経過すれば確定するのであつて、後日、承認取消処分が取消されても、既に確定した課税処分がさかのぼつてかしのあるものになることはなく、また、承認取消処分の取消された時点においてかしのあるものに変ることもない。このことは、国税通則法第二三条の規定が設けられていることからも窮われるのである。
右主張は理由がない。
三 被控訴人は、また、本件課税処分の取消を求めている。
しかし、本件課税処分は昭和四三年八月三一日付でなされ、その頃被控訴人に通知されたと認められるところ、本件無効確認請求事件は昭和四四年九月二二日提起されており、また提起遅延の正当な理由を認めるべき資料もない。のみならず、課税処分の取消請求訴訟を提起するためには所定の行政不服の手続をふむことが必要であるが、この手続をすませていないことは、弁論の全趣旨により明らかである。いずれにせよ、取消請求は訴え提起の要件を欠くといわなければならない。
四 更に、被控訴人は減額更正の請求をしている。しかし、かかる請求は税務署長に対してなすべきであつて、直接裁判所に対して求めることはできない。
五 原判決理由第二項1、2、3(原判決一五枚表六行目から二〇枚裏一行目まで)を引用する。
六 以上のとおりであるから、原判決中控訴人敗訴部分を取消し、当審で付加した予備的請求は不適法であるからこれを却下し、民事訴訟法第八九条第九六条により主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺一雄 田畑常彦 丹野益男)